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(機関士は仙次の足元に置かれた一升瓶をうらめしげに見た。előzőben word fájlban is


benne van ez a mondat)
「幌舞に泊まりでいいべと思ったんだけど」
「ばかこくでねえ。最終の上りに乗る客がいたらどうすんだ」
「いるわけないしよ」
やまあい あか
気動車は 山 間 の駅に止まった。客どころか、廃屋の並ぶ駅前には 灯 りもない。
「俺は乙松さんとこに年始に行くわけでないだぞ。じじい二人でどんな話をせねばならんか
考えてもみろ。それともおまえ、一緒に酒飲んで泣けっか。あ?」
「やあ……冗談すよ、おやじさん。そんなむきにならんで——しゅっぱぁつ、しぃんこおォ——」
「おお。なかなかいい声出すでないの」
「乙松さんの物まねだべさ」
はる
やがて、凍えた川の 遥かな先に、ボタ山の影をくろぐろと背負った幌舞の灯が見えた。
「警笛鳴らせ。五分遅れだっけが、乙松さんホームで待っとるベや」
こだま
キハ 12 形は余命を嘆くように、老いた笛を山々に 谺 させた。

トンネルの円い出口の中にすっぽりと、幌舞の駅が現れる。採炭場の廃屋と化物のようなコ
ンベアの影を背にした、まっしろな終着駅だ。
そろ れんがづ
機関士と仙次は、腕木式の信号機を指さして声を 揃えた。サーチライトが 煉瓦積みみのプ
ラットホームを照らし出す。
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むがい ひし はて
かつては無蓋貨車と機関車で 犇めいていた貨物ヤードは、 涯 もな い雪原だった。
とぎばなし
「見てけらしょ、おやじさん。なんだかお 伽 話 みたいだべさ」
わだち
轍 の音さえくぐもって聴こえる。老いた幌舞駅長は、粉雪の降りしきる終着駅のホー厶に、
カンテラを提げて立っていた。
「乙松さん、五分遅れだのに、ずっとああして立ってるんです。外は零下二十度の下だべ」厚
がいとう あごひも
ぼったい国鉄 外 套の肩に雪を積もらせ、濃紺の制帽の 顎 紐をかけて、乙松はホー厶の先
りん は
端に立ちつくしている。いちど 凜と背を伸ばし、軍手を 嵌いた指先を進入線に向けてきっか
りと振り示す。
「かっこいいよねえ、乙松さん。ほんと絵になるベさ」
「やい、若い者がなれなれしく乙松さんなどと呼ぶでない。駅長って呼ばんか。しっかり見と
け、あれがほんとのポッポヤだべや。制服ぬいでターミナルビルの役員に収まるような、はん
かくさい JR の駅長とは格がちがうベ」
はあ……なんか俺、見てて泣かさるもね……
けいてき とどろ
機関士はひとこえ 警 笛を踏むと、ブレーキを引いた。キハ 12 はジーゼルの 轟 きを残して、
終着駅のホー厶に止まった。
きし
到着の遅れた五分間の分だけ、うっすらと雪の積もったホー厶の上を、乙松は長靴を 軋ま
せて歩み寄ってきた。
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おと
「やあや、 乙さん。こっちはしばれるねえ。遅れてすまなかった」
笑顔をつくろって、仙次はホー厶に降りた。
「なんもなんも。明けましておめでとう」
はい、おめでとう。ほんとはあんたと年越そうと思ったんだがね、秀男のやつが子供つれて
帰ってきちまったもんで」
「へえ。秀坊がおやじかい。てことは、仙ちゃん、じいさまでないの。初孫で、なまらめんこいだ
べなあ」
Eddig átnézve
「はあ、そりゃめんこいさあ」
自分が乙松にまっしろな毒を吐きかけたような気がして、仙次は手袋で口を被った。
「秀男のやつ、乙さんとこに年始に行くベって誘ったんだが、明日は御用始めだからって。 ま、
勘弁―^てやってけらっ―^ょ」
「なんもだ。秀坊も札幌本社の課長さんともなりゃ忙しいベ。こっちのことなんか気にせん よ
うに言っといて」
「春までには、ちゃんとのしつけて頭下げに来させるでな。入社したときは、俺の目の黒い う
ちは幌舞線は守るだとか、でけえことばかし言ったくせに。ほんとすまんね、役立たずで。
この通り」 まデぁたま
仙次は帽子を脱いで禿頭を下げた。
「やめてけらっしょ、仙ちゃん。美寄中央駅の駅長さんに頭下げられては、返す言葉もない
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ベさゃ」
まったく恐縮したように仙次の脇をすり抜けて、乙松は運転席を,きこんだ。 「ごくろうさん。
中であったまって行かしよ」
頭を下げ統ける仙次の後ろ姿を見つめながら、機関士は答えた。
「降ってるし、すぐ戻るわ。駅長さん」
「そうかい……は、駅長さんってかい。さては仙ちゃんに言われたな。なんも、駅長さんな ん
て、こそばいですよお。駅員だって一人もおらんだから」
言いながら乙松は、外套の背中から手旗を取り出した。鶴のように瘦せた長身を屈めて仙
次の背を叩く。—
「仙ちゃん、また肥えたんでないかい」
「そうかい」と、仙次はようやく頭を上げた。
「正月、食いすぎた。これ、おっかあから乙さんにって」
「やあや。こりゃどうも。やっと正月が来たわ。先に中にはいっててけらしよ。上りを出し たら行
くから」
折り返しの最終を送り出す乙松の姿は見ずに、仙次は線路を横切って駅舎に向かった。 幌
舞駅は大正時代に造られたままの、立派な造作である。広い待合室の天井は高く、飴色 の
太い梁が何本も渡されていて、三角の天窓にはロマンチックなステンドグラスまで嵌まっ

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